第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
俺と左之と平助の三人で近江屋の前まで来ると
「一君、こっち。」
物影から総司が声を掛けてきた。
「此処に居るのか?」
俺が総司に問うと、総司は近江屋の二階を睨み付けて答えた。
「うん。居るよ。
二階から声が聞こえる。多分、時尾ちゃんも一緒だ。」
「時間を掛ける程、時尾が危ない。一気に踏み込む。
左之は裏口を押さえてくれ。」
「分かった。」
そう言って左之が裏口へ向かってから、俺と総司と平助で近江屋へ乗り込む。
出て来た主人を威し付けて黙らせると、そのまま二階へ上がった。
部屋の前に立ち一呼吸置いてから一気に襖を開け放つと、中に居た三人の男が弾かれたように立ち上がる。
その男達の背後に時尾が項垂れて座って居た。
先ず時尾の無事な姿に安堵して、それから今にも斬り掛かって来そうな男達を威嚇する。
「新選組だ。その女を返してもらう。」
時尾が俺の声のする方に顔を上げて「斎藤さん」と呟いた。
「時尾、待っていろ。今すぐ助ける。」
出来る限りの優しい声色で言ってやると、時尾は少し安心したように頷く。
「返すも何もこの女は元々長州の物だ。
関係無い奴は引っ込んでいろっ!」
苛立たし気に叫ぶ男に総司が一歩近付いて、笑いながら言った。
「元はと言えばそっちがその娘を使ってうちに間者を送り込んだんじゃない。
関係無いって言い種は酷いなあ。」
「大人しく時尾をこちらへ渡せば命までは獲らん。
……どうする?」
言いながら俺は右腰に手を回す。