第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
じりじりと対峙している間に、一番背後に居た男が突然時尾の腕を掴んで引き上げた。
一瞬の後、その男の右肘から下がぼとりと畳に落ち、叫び声が響く。
「汚い手で時尾に触れるな。」
抜刀した俺に対し、残り二人の男が色めき立つ。
「平助、時尾を頼む。」
「ああ、分かった。」
男達を牽制したまま言うと、平助が時尾の身体を支えて
「もう大丈夫だからな。」
と、部屋から連れ出してくれた。
「さあ、これで五分五分だけど…どうするの?」
笑顔のまま総司が男達に問い掛けた。
こういう時の総司が一番怖い。
俺はこれ迄の経験上、それを知っていた。
ぴりぴりとした殺気の中、総司も本気で怒っているのだと分かる。
俺と総司の勢いに男達は圧され気味だったが、それでも退く気は無いようで俺達を睨み付けながら抜刀した。
「あーあ……無謀だね。」
総司がまた一歩踏み出す。
そうなってしまえば決着は一瞬だった。
俺と総司が近江屋を出ると、左之と平助に守られるように時尾が立っていた。
「大丈夫だったか?」
其処に駆け寄ると、時尾は俺の着物の袖口を軽く掴んで頷く。
「このまま屯所に戻るのは得策じゃねえ。
この騒ぎを聞き付けた奴等が襲って来るかもしれねえしな。
隠れ宿を手配しておいたから、斎藤は時尾と其処へ入ってくれ。
明日の朝、不知火と一緒に迎えに行く。」
俺は左之の言葉に頷いてから時尾の手を引いてその宿へ向かった。