第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
翌日、俺が所用から帰って来ると左之が慌てて飛び出して来た。
「斎藤、不知火と連絡が取れた。」
やっと訪れた吉報に俺の気持ちも逸る。
「それで……?」
「ああ……時尾の事を引き受けてくれるそうだ。」
「………そうか。」
俺は心の底から安堵した。
その俺の様子を見て左之が続ける。
「佐伯の事は不知火も把握していたらしい。
長州の奴等の汚ねえ遣り方に案の定偉く憤慨してたぜ。
それで時尾を探してたらしいんだが、
俺達が預かっていると分かって不知火の方から連絡して来たんだ。」
「それで時尾を両親の元に帰してくれるのか?」
「勿論だ。
親許に連れ帰って、その後熱りが冷めるまで
両親共々長州の手が届かない所に匿ってくれるってよ。」
珍しく左之が興奮気味に捲し立てる。
やはり左之もずっと時尾の事を気に掛けていたのだと改めて思い知らされた。
「唯、その準備にちょっと手間取ってるみたいでな。
時尾を迎えに来るのは明後日になるらしい。」
「了解した。
その旨を時尾に伝えておく。」
俺はその足で時尾の所に向かった。
時尾の部屋に入り、左之から聞いた話を伝えると
「そうですか。」
と、特に喜ぶ様子も無く無表情で答えた。
「嬉しく無いのか?
両親の元に帰れるのだぞ。」
「いえ…とても有り難いと思っています。」
それでも尚、時尾は無表情を崩さない。
そんな時尾の様子を俺は不審に思いながらも
「とにかく、もう少しの辛抱だ。」
慰めるように言って部屋を出た。