第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
「何故、外に居るのが俺だと分かった?」
おそらく外に居たのが総司や左之や平助であれば、時尾はここまで頑固に部屋へ入れとは言わなかっただろうと思う。
俺と二人で過ごす時間が多い事で、他の人間よりは俺に心を開いているように感じていた。
「匂いで分かりました。」
「匂い……?俺は匂うか?」
自分の袖口を鼻に着けて嗅いでみると、時尾はふふと笑った。
「そうじゃありません。何となく感じるんです。
沖田さんには沖田さんの、斎藤さんには斎藤さんの匂いがあります。
目が見えない分、他の感覚が鋭くなっているのかもしれません。」
「そういうものか。」
俺は何となく納得した。
暫くたっても時尾は腰を下ろしたまま、布団に入ろうとはしないでいる。
「眠っても構わない。
俺はあんたに手は触れないから心配するな。」
「いいえ。斎藤さんが起きているなら私も起きています。」
「……そうか。」
その後、二人共に何も語らず火鉢の中で炭が弾ける音だけが響いていた。
俺はふと、以前から気になっていた事を聞いてみようと思い立った。
「あんたは…俺を恨んではいないのか?」
「恨むって…?」
「俺はあんたの兄を斬り殺した。」
薄明かりの中で時尾の顔が少し歪む。
恨むならはっきりと恨んで欲しいと思った。
俺を一生許さないと、そう叫んでくれて構わないと思った。
なのに時尾は
「恨んでなどいません。」
そう言って微笑んだ。
「何故恨まぬ?俺を責めてくれて構わない。」
「では……斎藤さんは兄を殺した事を悔やんでいるのですか?」
逆に時尾から問われて俺は息を飲んだが、それでも自分が思っているままを正直に答える。
「悔やんではいない。
俺は務めであれば味方であろうと斬る。
そこには何の躊躇いも無い。」
「……斎藤さんは強い人ですね。
だから兄も斎藤さんに殺されたかったのかもしれません。」