第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
その夜はとても寒い夜だった。
夕刻から降り出した雪が既に庭木を真っ白に覆っている。
俺は時尾の部屋の前で深々と降り続く雪を眺めていた。
夜半を過ぎた頃、突然静かに障子戸が開いて時尾が顔を出した。
「斎藤さん…?」
「どうした?眠っていたのではないのか?」
俺が腰を上げて時尾に近付くと、時尾は探るように手を伸ばし俺の頬にそっと触れた。
「…………っ」
「やっぱり……凄く冷たい。」
俺は動揺して何も言えずにいた。
「部屋に入りませんか?」
「何…?」
「そんな所にずっと居たら風邪を引いてしまいます。」
「いや……大丈夫だ。」
「駄目です。お願いですから…。」
時尾がこんな風に自分の意見を押し通すなど今まで有り得なかった。
余程俺の事を心配してくれているのだと思ったが、それでも俺は軽々しく部屋に入るとは承諾出来ない。
「女が一人で眠る部屋に入れる訳が無いだろう。
あんたもそんな無防備な事を言うな。」
俺が少し強い口調で咎めると時尾は不思議そうな顔をして首を傾げた。
「何故でしょうか?」
「自分の寝所に男を招き入れるなど……
お…襲ってくれと言っているようなものではないか。」
何故か俺の方が動揺していた。
時尾はやっと俺が言っている意味に気付いたようだが、それでも尚、部屋に入れと譲らない。
「だから……」
俺が再び固辞しようとすると
「斎藤さんは私を襲いますか?」
真面目な顔で聞いてきた。
「いやっ…俺は……そんな事は絶対にしない。」
すると時尾はにっこりと笑って、俺の袖を軽く引っ張る。
「それなら何も問題は無いでしょう?
もし万が一、斎藤さんに襲われても直ぐ大声が出せるように
私も起きていますから。」
ここまで言われては仕方が無いと、俺は諦めて部屋に入る事にした。