第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
「……一つ聞いてもいいだろうか?」
「何でしょうか?」
「あんたのその目は生まれ付きなのか?」
我ながら失礼な事を聞いているとは思ったが、それでも以前からどうしても気になっていた。
時尾は粗相をするかもしれないとは言っているが、食事をする所作を見てもとてもそうは思えない程しっかりしている。
時尾は俺の失礼な問いを気にする風でも無く答えてくれた。
「十の頃に流行り病に掛かって、
その時の高熱のせいで見えなくなりました。」
「………そうか。
嫌な事を聞いてしまってすまない。」
これ迄見えていたものが突然見えなくなった時の辛さは如何程だったろうか。
もしかすると生まれ付きの盲目よりも、辛酸を舐めて来たのかもしれない。
「あんたさえ迷惑で無いのであれば……」
「え……?」
「俺はこれからも此処で食事をしても構わないか?」
俺だけでも出来るだけ時尾の側に居てやりたいと思った。
少しの間の後、時尾は「はい」と頷いて、今度ははっきりと笑ってくれた。
それからの時尾は大分打ち解けてきて、皆共少しずつ話をするようになった。
炊事も頻繁に手伝ってくれたが、それでも大勢の中で食事をする事にまだ抵抗があるようで、結果俺と二人で過ごす時間が多くなっていった。
その頃、暫く鳴りを潜めていた市中での長州の不穏な動きが活発になり、俺達も手を焼く事になる。
時尾が間者でない事ははっきりしていたが、それでも此処で暮らしている以上何か知っていると思われて長州の奴等が連れ去りに来る可能性が再び高まった。
もし捕まってしまえば拷問を受ける事になるだろう。
俺達はまた時尾の護衛を強化する事にした。