第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
時尾の部屋の前に着くと、廊下で総司が座り込んで酒を飲んでいた。
「あれ、一君どうしたの?」
「総司こそ。此処で何をしている?」
「うーん……折角時尾ちゃんが御飯作ってくれたのに
一人じゃ可哀想だなあって思って来たんだけどさ。
でも僕が部屋に入ったらまた怖がらせちゃうかなって。」
自分の言葉に時尾が怯えた事で、総司なりに気を遣っているのだと分かる。
「でも一君が来たなら僕はお役御免だね。
皆の所に戻るよ。」
総司は徳利を手に持って広間に戻って行った。
「時尾…入るぞ。」
部屋に入ると時尾は食事の最中だった。
「斎藤さん…?」
「俺も此処で食べても構わないか?
あんたが嫌だと言うのなら出て行くが…。」
「……いいえ。構いません。」
時尾の返事を聞いてから、俺は膳を置いて時尾と向かい合うように腰を下ろした。
「今日の夕餉はあんたが作ってくれたそうだな。」
「お口に合いませんか?」
時尾が心配そうな様子で問い掛ける。
「いや…とても美味い。
この屯所でこんな美味い飯が食えるとは思わなかった。」
その瞬間、時尾が微かに笑った。
初めて見た時尾の笑顔に俺の鼓動が一つ激しく鳴った。
「こんな所に一人で居ないで皆と一緒に食事をすればいいだろう。
皆もあんたに礼がしたいと言っていた。」
時尾は少し困ったような顔をした。
「でも…私はこんな身体なので……
粗相をしてご迷惑を掛けるかもしれないから……」
俺達を避けているのではなく、目の見えない自分が迷惑を掛けるかもしれない事を怖れているのだとこの時になって俺は初めて気が付いた。
「そんな事は気にしなくていい。
誰も迷惑だとは思わん。」
俺はそう言ったが、盲目の時尾にとっては何の慰めにもならないだろう。
時尾は押し黙ってしまった。