第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
その日の晩、遅れて夕餉の席に付いた俺は目の前の膳を見て僅かな違和感を感じた。
椀を手に取って汁物を口にすると、その違和感が確実な物になる。
「今日の炊事当番は平助だったか?」
俺が疑問を口にすると
「あ……やっぱり気付いたね、一君。」
平助が目を輝かせて言った。
「この晩飯はね、時尾が作ったんだよ。」
「時尾が…?」
「そう。俺が晩飯の準備をしてたらさ、突然時尾が勝手場に来て
何か手伝わせてくれって言うんだよ。」
平助は興奮気味に捲し立てる。
「俺もびっくりしたんだけど、じゃあ折角だからって
勝手場の中を簡単に案内しただけなのに
凄え手際良く殆ど時尾が作っちまった。」
時尾が自ら行動を起こした事が平助は余程嬉しかったのだろう。
満面の笑みを浮かべていた。
「しかも平助が作るよりも格段に美味いしな。」
左之がにやにやしながら言うと、平助は「五月蝿えよ」と左之を睨み付けた。
「それで、時尾はどうした?」
俺が問うと笑顔だった平助の顔が若干曇る。
「それがさ…
此処で皆と一緒に食べればいいって言ったんだけど
迷惑だからって部屋に戻っちまった。」
俺は少し考えてから自分の膳を手に持って立ち上がった。
「時尾の所に行くんなら、皆が礼を言っていたと伝えてくれ。」
副長が然り気無く言う。
俺は頷いて時尾の部屋に向かった。