第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
ある朝、時尾の部屋へ朝餉の膳を持って行くと、いつも通り時尾は既に布団を上げ身仕度も整えて正座していた。
「朝飯だ。」
時尾の手が届く位置に膳を置いてやると
「ありがとうございます。」
と未だ他人行儀に頭を下げた。
「あまり顔色が良く無いな。
たまには中庭にでも出るといい。
今日は良い天気だ。」
そう言って部屋を出ようとすると、珍しく時尾の方から声を掛けてきた。
「あの……」
「何だ?」
「食事はいつもどなたが作っているのですか?」
唐突な問いに多少面食らったが、俺はきちんと答えてやる。
「俺達隊士が交代で作っている。
何せ男所帯だからな。
美味くないかもしれないが我慢してくれ。」
「いえ……そういう事ではありません。」
時尾は少し慌てた様子を見せた。
彼女がこんな風に感情を表すのは珍しい。
少しずつ心を開いてくれているのかもしれないと嬉しく思った。
「美味くなくとも食事は大事だ。残さず食べろ。」
「はい。」
時尾が箸を手に取ったのを見届けて、俺は部屋を出た。