第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
それから俺達幹部が交代で時尾の監視を続けた。
皆が其れなりに気を遣って接したが、時尾はなかなか心を開かない。
特に誰とでも直ぐに打ち解けられる平助ですらが苦戦している様子を見るにつけ、時尾が親許から引き離されて以降受けて来た苦痛の重さを実感するばかりだ。
そんな時、幹部が集まった席で左之が切り出した。
「時尾の事を不知火に頼んでみちゃどうかと思うんだが…。」
「不知火か…。」
副長が悪くないというような顔をする。
「ああ…あいつは長州に属してはいるが
長州の奴等と馴れ合ってる訳じゃねえ。
しかも筋の通らねえ話は許さないときてる。
佐伯と時尾の事情を話せば力になってくれるかもしれねえ。」
全員が納得したように頷いたが、左之が一つ溜め息を吐いて続けた。
「ただなあ…不知火が今何処に居るのかが分からねえ。
何とか連絡を取れるようにはしてみるが…。」
結局話はそれ以上進まず、先ずは不知火の居所を探すのが先決だという事で纏まった。
不知火と連絡が取れるのを待ちながら、引き続き時尾を屯所で匿った。
山崎の調べで時尾が間者である可能性は除かれたので、監視というよりは護衛に近い状態になってはいたが、流石に屯所から出なければ然う然う危険な事も無く、一日中目を離さないという状況ではなくなっていた。
時尾にも屯所内であれば好きに動いても構わないと伝えたが、それでも彼女は殆ど部屋から出ようとはしなかった。