第2章 輝く意味~原田左之助編~
それから一月程してまた屯所に田島屋の遣いがやって来た。
明日操が祝言を挙げるのだと、俺に祝い菓子を手渡す。
然り気無く嫌味の無いこの遣り方に俺は脱帽した。
全く…あの親父さんには敵わねえ。
祝辞を告げて遣いの男を帰してから、ふと俺の後ろで心配そうな顔をして立って居る平助に気が付いた。
「左之さん……」
何かを言い掛ける平助に「やるよ」と今貰った菓子をぽんと手渡す。
「いいのかよ……これで。」
「何だ?食わねえのか?要らねえなら俺が食っちまうぞ。」
「いやっ……そうじゃなくてさ。
………食うけど。」
「食うのかよ。」
俺は笑いながら心の中で平助の優しさに感謝した。
やっぱり…この仲間はそう簡単に捨てられねえよな。
その日の夜、寝付けずに一人酒を飲んでいた俺の部屋に平助が入って来た。
「左之さん…届け物だよ。」
「届け物…?」
平助が部屋の外に顔を向けて「おいで」と促すと、おずおずと操が姿を現した。
「なっ……。どういう事だ、平助。」
俺が平助を問い詰めると
「だってさ、この娘…屯所の前で泣きそうな顔して立ってたんだよ。
危ないし、可哀想じゃん。だから連れて来た。」
あっけらかんと言い放つ。
「後は左之さんにお任せするよ。じゃあね。」
そう言って平助は障子戸を閉めて部屋を出て行ってしまった。
「お……おいっ。」
後に残された俺と操は暫く無言のまま立ち尽くしていたが、俺が大袈裟に溜め息を吐くと操の身体がびくりと震えた。
「送って行くから……帰れ。」
「……帰りません。」
「帰れ。」
「嫌です。帰りません。」
俺は苛立たしさを顕にして操を睨み付けた。
「大体、何しに来たんだ。
お前は明日祝言を挙げる身だろう。
そんな女が他の男の所に来るなんて……
親父さんが知ったら偉い事になるんだぞ。」
操は弾かれたように顔を上げ、俺に負けまいとするように強い視線を送って来る。
「父の許可は貰っています。」