第2章 輝く意味~原田左之助編~
捨てられない物……その言葉に俺は自分の境遇を重ね合わせる。
「代々続いている家業は勿論、
長い間仕えてくれている使用人達…その他色々を
私の代で捨てる訳にはいかないのです。
本当に私の我儘だとは思うのですが……」
「いや…あんたの我儘だとは思わねえ。当然の話だ。」
そう言った俺の顔を意外だと言うような顔で見つめた男の目がふっと和らいだ。
「私はね……原田さん。
あなた方新選組にはとても感謝しているのですよ。」
「感謝?」
「はい。あなた方が信念の元に戦って下さっているからこそ
我々は安心して商いが出来るし、安穏と暮らしていけます。
市中には新選組の事を良く思わない人も多いから、
私も正面切って感謝の意を表せないのは申し訳無いのですが…
それでも表立って言わなくても、
私と同じように考えている人間は多い筈です。」
「……ありがとな。あんたのお陰で、自分達のやってきた事が
間違って無かったんだって思えるよ。」
俺がぺこりと頭を下げると、男は慌てたようにそれを制してから申し訳無さそうに話を続けた。
「だからと言って……
やはりあなたに操をお渡しする訳にはいきません。」
「ああ…分かってる。」
「私の我儘に付き合わせる形にしろ
それでもやはり娘には幸せになって貰いたいので
必死に婿を探しました。
手に手を尽くして、やっと大坂木津屋の三男坊を
婿に迎え入れる手筈が整ったのです。」
大坂の木津屋と言えば、田島屋にもひけを取らない大店の薬種問屋だ。
三男坊とはいえ、其処から婿に貰おうとするには途轍もない金と手間が掛かった事だろう。
「この三男坊というのが仕事の面だけで無く、
人柄も申し分無い好青年なのですよ。」
男は俺を安心させるかのように付け加えた。
「そりゃあ結構な話だ。
あんたの娘さんも幸せになれるだろうよ。」
俺は心からの賛辞を述べ、そして覚悟を決めた。
「それで……俺は何をすればいい?」
「……話が早くて助かります。」
男は安心したようにほっと一つ息を吐く。
「いくら聞き分けが良いと言っても
やはりあの年頃の娘です。
私がどれだけ言い聞かせても、聞く耳を持たないでしょう。
だから…あなたの方から操に嫌われて貰いたい。」