第2章 輝く意味~原田左之助編~
暫く経ったある日、俺達はまた茶店で待ち合わせた。
でもその日の操は何故だかいつものような元気が無く、口数も少なかった。
「操…何かあったのか?」
俺の問いに操は躊躇いがちに口を開く。
「父が……私に縁談があるって……」
「縁談……か。」
操もそろそろ所帯を持っても可笑しくない年頃だ。
しかも大店の主人の一人娘とくりゃ、店を継ぐ為に親が選んだ良い婿を迎える必要があるだろう。
こればかりは俺にもどうにも出来ねえ問題だ。
「でも私…父に言ったんです。
まだ祝言なんて挙げたくないって……それに……」
操は少し言い淀んでから続けた。
「私……好きな人がいるからって……。」
操が言う好きな人ってのが誰か気付かない程俺は野暮じゃねえ。
野暮じゃねえが……だからってじゃあ俺がって言う訳にもいかないのは百も承知だ。
操はちらりと俺に視線を向けたが、俺が何も言わないのを確認すると
「今日は…帰ります。」
と立ち上がる。
じゃあ送って行くと言う俺を制して、一人で帰りたいと歩き出した操をその場で見送る事しか出来なかった。
何かを選び取るという事は、他の何かを捨てる事になる。
例えば俺がこれから先、操と生きる道を選んだとしたら捨てる物は何になるだろうと考えた。
仲間を捨てて、新選組を捨てて……俺は生きて行けるのか?
じゃあ、俺を選んだ操は何を捨てる?
優しい両親を捨てて、苦労一つした事のない生活を捨てて……
とても無理だろうな。
俺達は出会うべきじゃ無かった。
いや…俺達は惹かれ合うべきじゃ無かったんだ。
これまでも沢山の女との別れを経験して来たが、これ程までにもう会えないっていう結果を受け入れ難いのは初めてだった。