第2章 輝く意味~原田左之助編~
それから一刻程後に操が戻って来た。
「ごめんなさい。お待たせしてしまって…」
息を切らせて小走りで俺に向かって来る。
「そんな慌てなくても大丈夫だ。楽しかったか?」
「はい。とっても。」
「あの嬢ちゃん達はどうした?」
「家の人が迎えに来て帰りました。」
「そうか、それなら安心だな。じゃあ…俺達も帰るとするか。
あんまり遅くなると親父さんが心配するだろうしよ。」
「はい。」
二人でのんびりと帰り道を歩いていると、ふと操が切り出した。
「原田さんって……有名なんですね。」
「有名?……ああ、俺がって言うより新選組が…だろ?
まあ、悪い意味で有名かもな。
何てったって、此処いらの連中には嫌われてるからなあ。」
俺が自嘲気味に言うと「そうじゃなくて…」と、操が俺を見上げる。
「私……さっきの友達に凄く羨ましがられたんです。」
「羨ましい?」
良く意味が分からなくて俺は聞き返した。
「新選組の原田左之助さんって言えば、
市中の女の人の間で人気者なんだって…
それだけじゃなくて、
島原の芸妓さんにも原田さんは人気があるのよ……って
教えて貰いました。」
「はあ?…そうなのか?」
確かに女に不自由はした事ねえからそれなりに自覚はしていたが、まさか操みたいなお嬢さん達の間でもそんな話になってるとは思いもしてなかった。
「土方さん…って人は役者みたいな色男だけど
何だか怖そうで近寄り難いって……
でも原田さんは優しくて男前で、皆憧れてるんだって。」
「あっはははは……」
余りに的を射た土方さんに対する言い種に俺は笑いが止まらなかった。
いや…本当に女って奴は、良く見てやがるぜ。
「私、全然知らなかった。原田さんの事………」
そう言って操は少し寂しそうに目を伏せた。
「知ったら俺の事、嫌になったか?」
操の顔を覗き込むようにしてそう問うと
「そんな事っ………ある訳ないじゃないですか。」
真剣な目で訴える。
「じゃあ…お前は皆に羨ましがられてればいい。」
にっこり笑った俺の手を操がそっと握った。
それに応えるように指を絡め強く握り返して、田島屋までの道程を二人でゆっくりゆっくり歩いた。