第2章 輝く意味~原田左之助編~
その後、池田屋襲撃の事後始末なんかで忙しい日々を送り、操との約束の日を迎える。
俺は随分と早くから待ち合わせ場所に向かったが、操は来ないかもしれねえと思っていた。
良く良く考えてみれば当たり前の話だ。
大切に育てられた大店の一人娘に、血塗れで人を斬り殺すような男が釣り合う訳がねえ。
俺のあんな姿を目の当たりにした操だって現実を痛感してるだろうよ。
もう会えないかもしれねえけど、それでも操と過ごしたあの輝くような時間を諦め切れず俺は此処に居るのかもしれねえ。
「原田さん。」
ぼんやりと立ち尽くしていた俺に、背後から操が声を掛けてきた。
「ごめんなさい。お待たせしてしまいましたか?」
「いや…俺が早く着き過ぎたんだ。けど…お前、来たんだな。」
操は不思議そうに首を傾げる。
「この前、酷え姿を見せちまったからな。
怖がらせたんじゃねえかって心配だったんだ。」
操は微かに困ったような顔をした。
「少しだけ………怖かったです。」
「当然だな。
だからよ…今日は無理に付き合ってくれなくてもいいんだぜ。」
「違いますっ!」
操のその勢いに今度は俺が不思議そうな顔をする。
「原田さんが怖かったんじゃなくて……
怖かったのは原田さんが身を置いている境遇って言うか……」
「俺の……境遇?」
「はい。…いつ大怪我するか分からないし、
もしかしたら死んでしまうかもしれない。
そんな所で戦っている人なんだって思ったら……
突然会えなくなってしまう事もあるのかもって
……怖かった。」
最後の方は消え入るような声でそう言って俯く操を抱き締めたい衝動に駆られたが、俺は何とか耐え抜いた。
ここで触れてしまったら、操も血塗れになってしまうような気がしたからだ。