第2章 輝く意味~原田左之助編~
帰りの道すがら、女は操と名乗った。
田島屋の主人の一人娘だそうだ。
初めは緊張した様子も見せていたが店に着く頃には大分打ち解けて、俺に向かって可愛らしい笑顔も見せてくれた。
「今日は本当にありがとうございました。」
操はまた頭を下げる。
「いいって。もうあんまり一人でうろうろするんじゃねえぞ。
これ程の大店のお嬢さんなら、お付きの使用人だって居るだろ。」
「はい。一応………」
「これからは気を付けるんだぞ。じゃあな。」
俺がそう言って来た道を戻り始めても、操は暫くの間店の前に佇んでこっちを見つめていた。
翌日、平助がどたどたと俺の部屋へ走り込んで来た。
「左之さん、お客さんだよ。」
「客?」
「可愛い女の子。全く、左之さんは本当にもてるよなぁ。」
「五月蝿えよ。」
両手を頭の後ろで組んでにやにや笑う平助を押し退けてから玄関に向かうと、其処に居たのは操だった。
「お前……どうした?」
「昨日は本当にありがとうございました。
助けて頂いた件を父に話したら、
何のお礼もせずに帰してしまった事を叱られまして……
これ…大した品では無いのですが。」
そう言って持っていた風呂敷包みを俺に渡す。
「いや……礼なんて。構って気遣わしちまって悪いな。」
わざわざ次の日にこうやって礼を遣わすような操の父親に俺は好感を持った。
大店の主人なんて慇懃無礼な奴ばかりだと思っていたけど、それは俺の勝手な思い込みだったようだ。
よく見れば操もただ甘やかされるだけじゃなく、きちんと躾られて育った雰囲気を漂わせている。