第2章 輝く意味~原田左之助編~
「女を口説くには、まだ少し時間が早えんじゃねえか?」
その日の巡察の帰り道、長屋の物陰で柄の悪い浪士に絡まれている女を見付けた。
他の隊士には先に屯所へ戻るよう伝えて、俺はその女を助けに向かう。
そうすりゃ当然、判で押したように「お前は誰だ?」と問われるから俺は声を大にして名乗ってやった。
「新選組十番組組長、原田左之助だ。」
新選組の名前を出せば大抵の輩は怯むが、今回はちょっと骨のある奴らしい。
「幕府の犬が」なんてお決まりの悪態を付きながら向かって来ようとしやがった。
仕方ねえから相手をしてやるか…と俺が肩に担いでいた槍を構えて一歩踏み出すと、流石に恐れをなしたのか「覚えてやがれ」とまたお決まりの台詞を吐いてそそくさと去って行く。
呆れ顔でそいつを見送ってから、絡まれていた女に目を向けると……年の頃は十七、八だろうか。
如何にも育ちが良さそうで、世間知らずを絵に描いたような女だ。
男好きのする目の大きな幼顔で、こりゃさっきの浪士でなくても絡みたくなるよな。
「大丈夫か?」
「はい。……ありがとうございました。」
女は青ざめた顔で、ぺこりと頭を下げる。
「お前、何処か良い家のお嬢さんだろう?
何でこんな所をうろうろしてんだ?」
俺がそう問うと
「あの……父に遣いを頼まれて出て来たのですが、
帰り道で迷ってしまって……」
少し恥ずかしそうに俯いた。
こりゃ正真正銘のお嬢さんだな。
「家は何処だ?」
「…………えっ?」
「送ってやるよ。もうじき日も暮れる。
また変な奴に絡まれても困るだろ?」
「そんな…ご迷惑じゃ……」
本当に申し訳なさそうなその態度に俺の頬も自然に緩んだ。
「構わねえよ。女を守るのは男の仕事だ。
で、家は何処なんだ?」
「田島屋です。薬種問屋の……」
「ああ……大店じゃねえか。田島屋ならこっちだ。」
俺が歩き出すと、女は小走りで慌てて着いて来た。