第6章 愛しすぎている~風間千景編~
「……私は『誰か』に似ているの?」
今宵二度目に結の中に吐き出した後、まだ乱れた呼吸を整えないまま結が問うて来た。
俺を見上げて来るその瞳には僅かな不安が宿っていたが、俺はその不安を一掃させるように、汗ばんでしっとりと湿った結の身体を抱き寄せる。
「いや……似ても似つかぬな。」
「本当に?」
「ああ。お前は誰にも似ていない。
お前のような凛々しい女に出会ったのは初めてだ。」
有希は……少なくとも俺の前では弱い女だった。
常に守ってやらねば…と思わされた。
だが結は、俺に守られて生きる事を良しとしないだろう。
俺の背後では無く隣にすくと立って同じ方向を見据えながら、共に風間の家を支える良き妻、良き母になる女だ。
今、俺の腕の中に居る結からは有希の面影など一切感じられなくなっていた。
「ねえ、千景。
こんな事を言うのは自分でも可笑しいと思うけど……」
「何だ?」
「貴方を愛しているわ。」
俺に向かって素直に愛を囁く結がどうにも愛おしい。
その凛とした笑顔を見つめて俺は思った。
天霧の溜め息を吐く姿が目に浮かぶな……。
有希の最期を見届けに行って、まさか妻を連れて帰る事になるなど……自分でも正直驚いている。
だがもう、この女を手離す事など出来ようも無い。
「俺の方こそ……だ。」
汗で張り付いた結の前髪を掻き上げて額に口付ける。
「可笑しな話だと思うが……
結…どうやら俺は今宵初めて会ったお前を……
愛し過ぎているようだ。」
了