第6章 愛しすぎている~風間千景編~
「お前は何故、此処に居る?」
果てた後、千景は腕の中に私を抱えたまま聞いてきた。
「此処って……島原にって事?」
「そうだ。」
私は自嘲しながらも正直に答えた。
「珍しくも無い、良く有る話よ。
親の借金の形に売られて来たの。」
それを聞いた千景は慰めるように私の髪をさらりと撫でる。
「帰る場所は有るのか?」
「親に売られたんだもの。
帰る場所も、待ってる人も居ない。」
「………そうか。」
私は千景に同情されるのが嫌で、目一杯明るく笑って言った。
「もう此処で生きていく覚悟は出来ているから平気。
ね……だからまた会いに来てくれる?」
私の問いには答えず、じっと目を見つめてくる千景に不安を感じ始めた時……唐突に千景は口付けて来た。
「………ん」
一瞬で離れたその唇が思いがけない言葉を発する。
「我が元に来い。」
「………え?」
「俺と共に来い。
いや……嫌だと言っても連れて行くぞ。」
「何……言ってるの?」
私の声は震えていた。
驚きと歓喜と……それ以上の怖れに、声だけじゃなく身体もかたかたと小さく震える。
「千景はやっぱり、何処かの世間知らずな御令息なのね。
此処から女を連れ出すなんて、そんな簡単な事じゃ無いのよ。」
それでも精一杯強がって、千景の鼻先を指で突いてみる。
「ふん……そんなもの、風間の家の力を持ってすれば
赤子の手を捻るより簡単な事だ。」
千景は鼻先を突いた私の指を掴んで、ねっとりと舐りながら微笑んだ。
その深紅の瞳の奥に宿る光が本気で言っているのだと訴え掛けて来たけど、それに素直に頷いてしまえる程私は幼く無かった。
「お妾さんにでもしてくれるの?
それとも、退屈しのぎの玩具なのかしら?
どっちにしても千景に飽きられたら終わりよね。
また、此処に戻って来なくちゃいけないわ。」
私はからかうように笑った。
千景の言葉を受け入れてしまいたい自分を抑え込むのに必死だった。
「ならばこの先、俺に飽きられない事だけを考えて生きろ。
難しい事では無い……
そのままのお前で居れば良いだけなのだから。」