第6章 愛しすぎている~風間千景編~
「……なし……てよ。」
もう、限界だ。
「何だと?」
「離してって言ってるのよっ!」
掴まれた手首を振り払おうとしてみても、男の力にぎりぎりと締め上げられ苛立ちが増すだけだった。
「もう果てたんだから良いでしょう?
まだ女を抱きたいんだったら余所へ行きなさいよ。
その有希とかって言う女を抱けば良いじゃない!」
嫌だ………嫌だ嫌だ。
これじゃあまるで嫉妬に狂った馬鹿な女みたいだ。
見苦しい自分の姿に、またじわりと涙が滲んでしまう。
「ふん……随分と態度が変わったではないか。」
何故か男は愉快そうに笑った。
「これが本当の私よ。幻滅したでしょ?
だからさっさと手を離して。」
「いや……悪くない。
益々お前が気に入った。」
掴まれたままの手首をぐいと引かれて、私の身体は倒れ込むように男の膝の上に収まった。
「…………………っ」
私が間近に迫った男の綺麗な顔を睨み付けると
「どうした?もう悪態は吐かぬのか?」
男は一層愉しそうに微笑んだ。
身動いでみるものの、男の片腕にしっかりと肩を抱えられて抜け出す事も出来ない。
遂に堪え切れなくなった涙がぽろぽろと頬を伝った。
「本当はっ…男の物を咥えるなんて……
吐き気がする程……嫌なのにっ………」
「お前が嫌だと思う事はもうする必要は無い。」
そう言いながら男は私の涙を優しく舌で舐め取る。
「大体……わ…私はっ……客に樣なんて付ける柄じゃ無いし……」
どうしよう……涙が止まらない。
私の頬を這っていた男の舌が耳へと移動して、ぞくぞくするような声で囁いた。
「ならば……千景…と呼べば良い。」
言いながら私の耳朶に軽く歯を立てる。
「…………んっ」
その刺激に身体中がぞわぞわと疼いたけど、それでもまだ僅かな理性が残っていた。
「私は……あんたみたいな男にっ……相応しい女じゃ…ない。」
歯を立てられた耳朶を、今度は癒すようにくちゅくちゅ…と舐め吸われる。
「あんたではない。
千景と呼べと、たった今言った筈だ。」
「んんっ…………ふ……」
「それから、俺に相応しいかどうかは……俺が決める。」
「でもっ……」
「五月蝿い。もう、黙れ。」
男は私を横抱きにし、軽々と立ち上がった。
「もう一度言う。
今からお前を抱く。抵抗は許さん。」