第6章 愛しすぎている~風間千景編~
どくどくと口の中に生臭い液体が拡がる。
初めての経験では無いけれど、この感触には毎回身体中を虫酸が走る思いだ。
全てを吐き出し終えて男は満足したのか、私の口から牡茎を抜いた。
ねえ…私に何をしたのか分かってる?
まさか私が喜んでいるなんて思って無いよね?
私は男に見せつけるように、わざとらしく苦し気な顔をしてその白濁を一滴残らず飲み込んでやった。
「………すまぬ。」
突然の男の謝罪に私は僅かに動揺した。
何に対しての謝罪なの?
口の中に吐き出した事?
それとも……他の女の名前を呼んだ事?
「構いませんよ。」
私は立ち上がり、今だ微かに呼吸を乱している男を見下ろしてやった。
「千景様がどなたを想いながら果てようが、
私には関係の無い事です。」
本当にどうでもいい。
私を私と認識されない事なんてもう慣れ過ぎな程慣れた。
なのに……何故この男の前ではこんなに悲しいのだろう。
「何故、涙を流した?」
私を見上げて男が聞いてきた。
……そんなの自分だって分からない。
今は只、この男の前から一刻も早く去りたかった。
「さあ……何故でしょう。
では、私はこれで……。」
もう充分でしょう?
私の仕事は終わった筈だ。
さっと踵を返して部屋を出ようとした私の手首を、男の大きな手ががっしりと掴むと低い声で言った。
「何処へ行く?
俺はお前を抱く…と言った筈だ。」