第6章 愛しすぎている~風間千景編~
「先ずは俺をその気にさせろ。」
男が私の耳元でそう囁いた。
こっちは元からそのつもりなのに、男の方から言われた事が何故か凄く悔しくて、私は軽く男を睨み付ける。
それならばもう遠回しな手管なんて必要無いだろうと、私は直接男の物を刺激してやろうと思った。
男の着物を割って牡茎を取り出し、べろりと舐め上げてみる。
こんな事は今迄に数え切れない程させられて来たから、其れなりに自信があったのに男は顔色一つ変えず私を見下ろしていた。
何なの……この男。
ほら、早く大きくしなさいよ。
「……ん…………んくっ………っ…」
私は意地になってその行為を続ける。
それでもまだ呼吸一つ乱さない男に焦れて
「気持ち……良いですか?」
其れと無く聞いてみると、冷静な顔で私を見下したように笑って言った。
「ああ……。しかし、まだまだだ。
もっと俺を煽ってみせろ。」
…………悔しい。
あいつと同じ顔をした男に、こんな小馬鹿にされるような事を言われて私の中に思い出したくも無い出来事が鮮明に沸き上がってしまう。
私が此処に来たのは、本当に陳腐な良く有る話だ。
親の借金の形に売られたからだ。
こうなる前には愛し合った男も居た。
私が此処に売られると決まった時、あいつは泣いてくれた。
………只、泣いてくれただけだった。
私を救おうともしなかったし、一緒に逃げようともしなかった。
あいつに自分の親のせいで迷惑を掛ける気なんて更々無かったから私の覚悟はもう決まっていたけれど、それでも一言だけでも良いから「一緒に逃げよう」と、「離れたくない」と言って欲しかった。
だけど、あいつの口からは終ぞその言葉は出なかった。
泣きながら別れを告げるだけのあいつを置いて、私は黙って売られるしかなかった。
此処に来てまだ辛さに涙を流していた頃、あいつが金持ちの商家に入り婿に入ったと風の噂で聞いた。
思えば涙を流さなくなったのは、その噂を聞いた時からかもしれない。