第6章 愛しすぎている~風間千景編~
腰窓の桟に座って、大して美味いとも思えぬ酒を呑み続けていると部屋の襖が静かに開いた。
「失礼致します。」
その声に俺の身体は固まった。
少し鼻に掛かったような甘い軽やかな声………有希の声に似ている。
入ってきた女が俯いたまま近付き、跪いてゆっくりと俺を見上げた。
その顔にまた俺は息を飲んだ。
商売女特有の濃い化粧をしてはいるが、黒目がちの大きな目、少しだけつんと上を向いた小さな鼻、下唇がぽってりと厚い艶めいた口元……
何もかもが有希を思わせた。
有希よりも二つ三つは年上だろうか…それでも俺の胸を締め付けるには十分な程似ている。
「お客様……?」
固まったまま自分を見つめる俺を不審に思ったのか、女が小首を傾げた。
「お前……名は何という?」
酌をさせるだけの女の名を俺は無意識に問うていた。
「結……と申します。」
「結……」
「はい。結ぶ……の一文字で結です。」
「終いの結だな。
……成程、今宵の俺には相応しい。」
自嘲する俺に酌をしながら女も問うて来る。
「お客様の御名前も伺って構いませんか?」
「風間千景だ。」
「千景様……今宵はお酌をするだけと言われていますが……
でも、お会い出来て嬉しいです。」
俺の目を見つめ、にっこりと微笑んだ女の笑顔とその声にどくりと心臓が高鳴った。
徳利を傾けている女の手首を掴んで、ぐいと引き上げる。
「気が変わった。」
「………え?」
「お前を抱く。
主人には先に充分な金を渡してある。
文句は言わせぬ。」