第6章 愛しすぎている~風間千景編~
その後、有希の墓前で土方と別れた。
俺はそのまま西国に戻る気にもなれず、久方振りの島原へ足を向けた。
これ迄酒に酔った事など無いが、今は飲まずにはいられない心持ちだった。
かと言って喧騒に紛れる気にもなれず、敢えて外れにある寂れた見世を選んで入る。
希望通り、碌に客の居ないその見世は静かなものだった。
其処に現れたそこそこの身形の俺を見て、見世の主人らしき男が飛び出て来た。
その男に通された部屋は古くはあったが不潔では無く、俺の身形を見てこの見世で一番上等な部屋を宛がったのだろうと思われる。
「先ずは酒だ。」
「へえ。」
「それから女も一人呼べ。
酌をさせるだけだ。どんな女でも構わん。」
そう言って俺が男の目前に銭袋を放り出すと、それを手に取った男がそのずしりとした重みに目を剥く。
「へへ……うちで一番の女を用意させて頂きますよ。」
男は溝鼠のような下衆い笑みを浮かべて部屋を出て行った。
銭袋の中身が余程気に入ったのか待たされる事も無く酒が運ばれて来て、早々に俺が手酌で呑み始めると「直ぐに女を寄越しますんで」と、また男は諛うように笑う。