第5章 僕は風 君は空~沖田総司編~
「松本先生……有希ちゃんのお腹を切って。」
僕は松本先生に向き直りそう言った。
「沖田君……」
途端に松本先生の顔が苦しそうに歪んだ。
「助かるかもしれないよ。
だって有希ちゃんが何時も守ってくれてたから。
だから……取り出してあげればっ……」
「沖田君、落ち着きなさい。
そんな事出来る訳が無いだろうっ!」
僕と松本先生のやり取りに、この場に居る全員が息を飲む。
「……………子供…か?」
目を見開き青ざめた土方さんの呟きに近藤さんと新八さんの口から嗚咽が漏れ出し、左之さんは「何てこった…」と肩を震わせた。
「ああ……有希ちゃん…」
僕は有希ちゃんに覆い被さって、その冷たい頬を温めるように撫で回す。
「有希ちゃん…怖かったよね?
苦しかった?……痛かった?
僕のせいだ……ごめんね。」
その間に僕の呼吸がひゅうひゅうと乾いた音に変わっていく。
「何の慰めにもならねえと思うが……
背後から袈裟斬りに一太刀でやられてた。
恐らく苦しむ間も無かっただろう。」
僕を慰める為に言ってくれた土方さんの言葉が、決定的に有希ちゃんの存在を打ち消すように聞こえて僕は遂に叫び出した。
「うあ…あああああああああああっっ!」
途端にここ暫くは落ち着いていた胸の痛みが一気に沸き上がって、僕は激しく咳き込むとそのまま意識を失った。