第5章 僕は風 君は空~沖田総司編~
「………静かに眠らせてやれ。」
その左之さんの言葉に僕は有希ちゃんを揺するのを止めて、この場に居る皆の顔をゆっくりと見回す。
「…………どうして?……どうしてこんな事に……」
「お前に……見せるべきじゃないのかもしれねえが……
このまま黙っている訳にもいかねえだろう。」
そう言って土方さんが一通の書状を僕の前に置いた。
「これが……有希の懐に突っ込んであった。」
雨に濡れて少し文字が滲んでいるそれは……
天誅と表書きされた斬奸状だった。
そっと手に取って拡げてみると………
以前、僕が斬った肥後勤王党の宮部鼎蔵先生の仇討ちだと……
病で余命幾許も無い僕を斬るよりも、大切な人を失った自分達と同じ様にお前から一番大切な人間を奪う事にしたと……
そう書かれていた。
「宮部って……誰?
殺した人の事なんていちいち覚えて無いよ。
酷いよね……僕が憎いなら僕を殺せばいいのにさ……
有希ちゃんは何も悪く無いのに……。」
僕は震える手でその斬奸状をぐしゃりと握り潰した。
「総司……申し訳無い。
お前に汚い仕事をさせてきた俺のせいだ。」
涙声の近藤さんが僕に向かって深々と頭を下げる。
その姿を黙って見ていた僕は……もう冷静な判断が出来なくなっていた。