第1章 それは「運命」で「偶然」で「必然」の出来事
買い物袋をぶら下げて、は俺の家にやってくる。
軽い夕食を作って、俺達は真正面に向かい合う。
俺はコーヒーを淹れて、彼女にマグカップを渡した。
「話って?」
一口、コーヒーを飲んだ。
俺って卑怯な男だな。
話なんて一つしかないことぐらいわかってる。
この前、ヨリを戻そうって俺が言ったからに決まってる。
「この前のヨリを戻すって話なんだけど……」
ホラやっぱり。
彼女は、マグカップを見つめる。
「ヨリ、戻してもいいよ」
意外な言葉に俺は目を見開く。
彼女はそういう感情を今でも俺に抱いていると思っていいのだろうか?
は少しうつむいていたけど、少しだけ頬を赤く染めていた。
赤く染めながらも、静かに俺に聞いた。
「一つだけ聴かせて」
「なに?」
「菅原君は、私のことどう思ってる?」
その質問に、心臓が跳ねた。
真っすぐに俺の瞳を見る彼女の顔は、真剣で心の奥を見透かされているような気分になる。
あの時と同じ質問に俺は唾を飲んだ。
「……好きかどうかって聞かれたら、まだわかんない。でも、ヨリを戻したいって気持ちは俺の本心。だと思う」
二人の間に沈黙が流れる。
時計の音がやけに大きく聞こえるのは、俺が彼女の返答にビビっているから。
は「そっか」と静かに声を出した。
そして顔をあげて、満面な笑みで
「菅原君、変わったね」
と言って、俺にキスをした。
甘くとろけるような熱いキスに、俺は見開いた目を閉じてそれに答えた。
優しく彼女をベッドに寝かせ、唇を貪る。
ヨリを戻して、俺達は恋人同士になった。
あの時咄嗟に出た言葉は、俺の本心。
これは間違いない。
でも、それと同時に「昔」の「過ち」を償いたかったのかもしれない。
人から見たらそれほど大きな「過ち」ではないだろう。
だけど、俺の心には今でも根深く、根強くその「傷」は、今でも奥底で眠っている。