第1章 それは「運命」で「偶然」で「必然」の出来事
「!!」
「どうしたの?」
俺はこのときいったい何を考えていたのだろう。
咄嗟に出た言葉は、彼女を困惑させるには十分だった。
「ヨリを戻さないか?」
は一瞬目を見開き、そして優しく微笑んで俺の前から姿を消した。
一人ぽつんと残された俺はその場に蹲る。
何であんなことを言ってしまったんだ……。
よりを戻すって、今更過ぎるだろう。
しかも俺から振っといて都合がよすぎるんじゃないのか?
大きく息を吐いた。
時計を見ればもう少しで7時になるところだった。
軽くシャワーを浴びて、着替えて学校に行こう。
きっともうとは会うことはない。
いや、会うことはあったとしても言葉を交わすことはないだろう。
これは偶然に過ぎなかっただけのことだったのだ。
だけどそれは本当に偶然だったのだろうか。
「昨日ぶりだね」
仕事帰りに食材を買うためにスーパーに寄った俺の前に、
買い物カゴを下げたが声をかけてきた。
10年もの間今まで一度も合わなかったのに、
つい先日たまたま居酒屋で会っただけなのに、
それなのに、日もおかずにこうして偶然出会うのは、
本当に偶然なのだろうか。
あまりにもできすぎている気がする。
「このあと、ちょっと時間ある?」
優しく微笑む彼女に俺はただ黙って頷いた。
それは、偶然というよりは「必然」なような気がする。
「運命」なんかじゃない。
俺たちは、この瞬間、出会うべくして出会った。
そんな頭の中が御花畑のような考えを25歳の男が考えていたことを、彼女は知らないだろう。