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砂時計【菅原孝支】

第5章 それは「今」と「過去」と「未来」の物語




次の日の仕事終わり。
俺は少し高級なレストランで彼女のことを待った。

待ち合わせの時間は、20時半。
今は20時23分。

俺は緊張する心臓を落ち着かせるために大きく息を吐いた。
彼女に言いたいことはたくさんある。
昔言えなかった言葉。
積み重ねた言い訳。
自分の醜さや汚さをつきつけられる度に逃げた。
それが楽で、そのくせあたたかい慰めを期待した。

『お待たせ』

少し乱れた髪を整えながら彼女は来た。

「大丈夫だよ。とりあえずなにか注文したら?」
『そうだね。お腹減っちゃった』

へラッと笑う。
その笑顔に俺もつられる。

注文の品が来るまで世間話に花を咲かせる。
他愛のない話が愛しい。

しばらくすれば料理が運ばれる。
彼女は「いただきます」と手を合わせ、それを食べる。
俺は赤ワインを片手に、彼女の姿を見つめた。

「あのさ」

そして彼女に話しかける。

『なあに』
「俺、お前のことが好きだ」

今まで言えなかった言葉。
隠していた気持ち。
俺の本当の想い。

「ずっと逃げてた。俺汚いから。自分が傷つくのが嫌で、お前を傷つけてた」

彼女は持っていたフォークとナイフを置いて、俺の話を真剣に聞く。
俺の心臓はバクバクと脈打ち、口から出そう。

「お前のやさしさを踏みつけて、ごめん」

言いたくて言えなくて。
言ったら何かが終わってしまう。
そんな気がした。
言えなかった、言わなかった。
自分が傷つくのが怖かった。

「俺はずるくて、弱くて、最低な奴だけど、でも俺はお前のことを愛してるんだ」


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