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砂時計【菅原孝支】

第4章 それは「子供」と「大人」の「狭間」で歌った日




大地は真っ直ぐに俺を見て言った。

「自分が"親"になって初めて"親"の気持ちが理解できたよ。でも、本当に理解しなくちゃいけないのは、忘れちゃいけない気持ちってのは、子供の頃の自分なんだと思う」

大地は静かに続ける。
彼の声が、俺の心の中に抵抗なく沁みこむ。

「初めて逆上がりできた日や初めてたくさん怒られた日、泣いた日、子供の頃感じた気持ちを忘れずに大切に持っとけば大人になっても、親になっても理解しあえると思うんだ。100%は無理だけどさ、それでも歩みよることはできるんじゃないかなって俺は思うよ」

俺は泣いていた。
なぜかはわからない。
ただ、大地の言葉を聞いていたら自然と涙が溢れた。

いい大人が居酒屋で泣きじゃくるその光景に、周りの目が痛かった。
俺が泣き止むまで大地は傍にいてくれた。
その優しさに俺はまた泣いた。

どのくらい時間が経っただろう。
俺の目は真っ赤に腫れ上がっていた。

「泣き止んだか?」
「ごめんな、大地……。奥さんいるのに……」
「はは、気にすんな。じゃあ俺帰るよ」
「おう。今日は本当にありがとうな」

そして俺たちは別れた。
家に帰れば、俺は布団に横になる。

あんなに泣いたのはいつ以来だろうか。

俺はどのくらい道を間違って自分の答えにたどり着くのだろう。
いつだって一度は道に迷わなければ自分の答えにたどり着けない。
ひとつも道を間違わずに生きていけたならよかった。
でもそんなモノはないんだ、どこにも。
失敗してつまづいて迷って間違って傷ついて傷つけて、歩いていくしかない。
一歩ずつ、自分の脚で、少しずつ。

「もしもし、?お前に話したいことがあるから、明日会える?」

電話越しから聞こえる愛おしい人の声。
もう逃げない。
たくさん傷つけてしまったけど。
ちゃんと言うよ、俺の本当の気持ち。


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