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砂時計【菅原孝支】

第3章 それは「憧憬」と「嫉妬」と「傍観」し過ごした日





それから卒業するまで、俺はバレー漬けの日々を送った。

試合に出られる回数は限られた。
影山に対して、嫉妬や憧憬の感情はいつだって付きまとっていた。
それでも俺は俺なりにできることをして、バレー部を引退した。

「菅原さん」

引退し、部室を去る二月の寒い冬の日。
影山が白い息を吐きながら俺の所に来た。

「どうした、影山」
「今まで本当にありがとうございました」
「え……?」
「俺、実は菅原さんにずっと憧れてて、尊敬してました」

何を、言っているんだ……。
俺を尊敬していただと?

「俺、菅原さんを追い越せるような選手になって、全国大会で優勝します」

追い越せるような選手って……。
お前は初めから俺の遥か上にいたよ。
こいつのこういうところ嫌いで羨ましいと思っていた。
こいつは、バカ正直で素直な奴だからこういうことさらっと言えちゃうんだ。

もっと影山が嫌な奴なら、俺はこいつのこともっと嫌いになれたけど、
でも残念なことに影山はいい奴だから、嫌いになれない。

「影山」
「はい?」
「俺はお前の才能が羨ましかったよ。ずっと憧れてた。嫉妬もした」
「………」
「絶対、全国行けよ?」
「うっす!!」

頭を下げて、影山は俺から離れていった。
走り去る影山の後姿を俺は黙って見つめる。

胸の奥が痛い。
泣き出したくなるような衝動を押さえ、俺は空を見上げた。

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