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【SS合同企画作品】それは秋の幻だったのか

第2章 女心と秋の空



「いってきまーす」
「今日の出張どこだっけ?」
「長野」
「遠いね。1人で?」
「うん。寂しくなったら、連絡するね」


この世の悲恋は2通りだということを、ご存知だろうか。
願っても叶わぬ恋。
願ってはいけない恋。
私は今、夫に常に罪悪感を抱いている。





後者の恋を抱いてしまった。






出張先に着く。秋の空は遠くで透き通るように青く染まっている。先週末の夫とのドライブを思い出した。秋の太陽がくっきりと照らし出す海は、夏よりも一層煌めきが美しかった。

任務を終えた夕方、オフィスに電話で報告をする。機械越しだけど、耳元に彼の声が触れる。そう思うだけで胸は高鳴った。

「信之さん、いますか」
『席を外してるよ。折返そうか?』
「いえ、大丈夫です」

そっか。
私は彼の会社のメールに概要をまとめた文面を送ると、帰路に着こうと駅へ向かう。
朝はあんなに澄み渡っていた青空は、美しい茜色に染まっていた。



電車の中。ぴこりと着信音が鳴る。
画面を開く。
信之さんだ。

『会議でした。お疲れ様。報告見たよ。さすがソラだね。帰りは気をつけてね』








何度も何度も、その文面を見た。





思い出す。
会議で意地悪な上司に詰められた私を、軽快に、的確に救ってくれたときから、あなたに惚れている。
仕事の内容を詰めた夕食の席で「このまま仕事なんか忘れてずっとこうしていたいね」って、そう言ったあなた。



本当は、今すぐ会いたいって、声が聞きたいって、伝えたい。




そう思いながら「ありがとうございます」とだけ、彼に送った。




用は済んだ。

返信が来るはずは、ない。







私は目をつぶり、携帯を握りしめる。
辛いだけの想いに泣き出してしまいたい。

茜色の空のように、私の心はあなたへの想いに、赤く赤く悶えている。






ぴこり。
携帯がなった。

胸がざわめく。
画面を開いた。

夫だ。


『お疲れ様。終わった?帰り、駅まで迎えに行くからね』




涙が、流れた。
私の中の茜色の空がさっと青に染まる。
そう、これでいい。これでいいはずなのに。


夫に返信する。


『ありがとう。会いたいよ』


胸が締め付けられる。
嘘をつく自分が嫌いだ。

今すぐに会いたいのは、本当は、あの人なのに。





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