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【SS合同企画作品】それは秋の幻だったのか

第6章 稲穂


5月、お玉杓子の泳ぐ水辺に足を踏み入れ植えた苗も順調に育った。秋風に揺れる稲穂はまるで黄金の海原のようだ。
稲を刈る季節がやってきた。兼続様はこの時期、1戸1戸をまわって檄をとばす。そして一緒に収穫作業をする。本当に武将様なのだろうかと思うけれど、そんな彼を皆慕っている。


夕日と雲が相まる、橙と紫の空の下。兼続様は私の田にいらした。鍛えられた上半身は露わでとても汗をかいている。
「遅くなった」
「今日は日も暮れますので、終わりにしようと思っています」
「そうか。では少し休んでいきたい。良いか」


憧れの人が隣に腰掛け、共に落ち行く夕日を眺めている。胸の高鳴りがが止まらない。信じられない。

私が恋をしている人が、側に。





兼続様は地にこぼれていた1本の稲穂をとり指でするりとなでた。
「今年の粒は大きい。これは美味いぞ。そなたたちのおかげだ」
「上杉のためです」
「ああ。私もいつだって、上杉と民のため精を尽くす」
兼続様の体を間近で見ると古傷だらけで、このお方は凄い場所に身を置いているのだと思うと胸が痛い。





いつも気概に満ちた兼続様が、どこかぼんやりとしている気がした。
「兼続様、何か、ありましたか?」
「はは、ソラにはお見通しか」
名を呼ばれて、どきりとした。
私の名前を、覚えている。
「戦の前は誰だって怖いものだ」
戦。近々、大きな戦が起こるのだろうか。
「案ずるな、援軍として出るのだ。ここが戦場になることはない」
そうじゃない。私は、あなたの心配をしている。


「…今日はあえてソラの田を最後にした。なぜだか解るか?」



兼続様の真っ直ぐな瞳がこちらを捕らえた。
精悍な顔立ち、凛々しい目に柔らかな唇。
全てに触れたい。
そんな風に見つめられたら、期待してしまう。
「存じ上げません」
私と話すため?そんなこと、口が裂けても言えない。
だってあなたは上杉の重臣、私はただの民なのだから。
「そうか。では帰ってきたら、答えを聞かせたい。ソラ、今日は一つだけ願いがある」
兼続はそっと私の額に、自身の唇を。



「私に力を、くれないか」



熱い体に包まれた。
驚きよりも、今すぐ彼を包んであげたい。そんな想いが溢れてくる。
あなたの力になれるのであれば、いくらでも、この身を。

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