第16章 Sense of guilt
ニノ君と付き合うことになってから、私は自分の気持ちを確かめるようにじっくり、ゆっくり、時を過ごした。
相変わらず翔君とはぎこちなくて、私もなんだかニノ君と付き合ったことを報告できずにいた。
また、隠し事が増えてしまった。
「う~ん、章立てはいいと思いますけど、内容がちょっと弱いんで…こっちの論文で固めたらどうです?」
「やっぱりそうだよねぇ…はぁ…読みたくないな~」
図書館の自習室。
うちの大学の図書館は少人数で集まって勉強できるように個室がいくつか設けられている。
主にゼミなどのグループ発表の事前学習などで使われるものだが、その内の一部屋に私とニノ君はいた。
「小雨、」
「へぁ!?」
ふいに名前を呼ばれ、私は変な声を出してしまった。
ニノ君は頬杖をついて、呆れたような笑顔でこっちを見ていた。
「いつになったら馴れてくれるんですか?」
「いつになっても馴れない気がします…」
『本物』のニノ君の彼女になったので、ニノ君は私のことを「小雨」と呼び捨てにするようになった。
私はそれに馴れなくて、いつもいつも変な態度になってしまう。
「前デートした時は普通にしてましたけど。」
「あれは…一応設定だって思ってたから平気だっただけで…」
「俺のこともいつまでも『ニノ君』って呼ぶし。せめて『和君』にしてくれません?」
「へぇぇ!?」
名前を呼ばれるだけでいっぱいいっぱいになるのに、ニノ君を名前で呼べなんて到底無理な話だ。
ニノ君は更にニコニコして私を見つめている。
楽しんでいるに違いない。
「名前で呼べなかったらペナルティです。」
「え、ちょ、なんでそんな…」
「ん~そうですねぇ…『ニノ君』1回でキス1回。」
「いやいやいや!無理無理無理!!」
私は両手を顔の前で思いっきり振った。
顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。
「静かにしてくださいよ、個室とはいえ、ここ図書館なんですよ?」
「だってそれはニノ君が…!あ!」
「あ。さっそくペナルティ1回。」
小さい個室に隣同士の私たち。
ニノ君は引っかかったとばかりに悪戯な笑みを浮かべ、私はと言うと後ろにどんどん体重を持っていって身を引く。
「うわわ…ちょ、ニノ君、近…あ!」
「はい、キス2回ゲット。」