第13章 Puzzle
ニノ君は何曲か聴くとヘッドフォンから耳を離した。
「そんなにオススメなら聴きますから、今度CD貸してくださいよ。」
「へ?あ、うん!もちろん…いいよ!」
「じゃ、今日はもう遅いですから送っていきます。」
ニノ君は私のお会計を待って、私の家の近くまで送ってくれた。
家の前まで来ると翔君に見られてしまうかもしれないので、翔君と会わなそうな場所までで。
「今日は俺の為に、デート引き受けてくれてありがとうございました。」
「ううん、私も楽しかったし…あ、これ、ありがとう。大事にするね。」
さすがにここまで尾行はされてないから、と前置きしてからニノ君がお礼と共に軽く頭を下げた。
私はニノ君に頭を上げてもらおうと、ネックレスに指を掛けた。
案の定、ニノ君がネックレスを見るために頭を上げてくれた。
そしてネックレスを掌に乗せるようにして、私の鎖骨あたりに手が触れる。
「今日はいつもと違う小雨ちゃんが見れたなぁ。
こんなことなら、最初から小雨ちゃんにしておけばよかった。」
「…え?」
ニノ君はネックレスから手を離すと、苦笑しているような自嘲しているような、そんな顔で私を見た。
「もっと早く知り合いたかったです。」
「どういう…ていうか呼び方、戻ってるし…」
薄暗くなってきた静かな道路。
街灯のほのかな明かり。
ニノ君がこのまま消えてなくなるんじゃないかと錯覚してしまうように、この時のニノ君は儚い表情だった。
「俺、呼び捨てにするのは彼女だけなんです。」
「あ…」
今日は『デート』だったから。
私が『彼女』だったから。
呼び方変えてくれたんだ。
なのに私は、勝手に独りでニノ君のこと意識してた。
もしかしたらニノ君も…って勝手に思ってた。
勝手に思って勝手にどうしようどうしようって。
馬鹿みたいだ。
私は恥ずかしいやら悔しいやら、よくわからない感情で顔を上げていられなくて俯いた。
「だから、ちゃんとその時が来たらまた呼んであげます。」
ニノ君はそれだけ言い残すと、すぐ近くの曲がり角を曲がって行ってしまったらしい。
私が顔を上げたときにはもう、その姿は無かった。
本当に、暗闇に溶けてしまったみたいに。
「その時って…何よ…。」
私はしばらく何も考えたくなくて、そこに突っ立っていた。