第11章 Trick
私は口をポカンと開けたまま固まった。
さっきまで曲がりなりにも彼女という存在がいた人で、それもものすごく好きで好きでたまらないっていう人だったはずなのに、ほんの数秒前、この人は私に「彼女になってくれ」と言ってきた。
「に、ニノ君…?」
「はい?」
「それは私に失礼というものでは…?」
一瞬頭が真っ白になったものの、今まで落ち込んでいたニノ君のことを励まし、別れる瞬間を見守っていた私に対して、それはあまりにも軽率すぎる…!
恋愛相談に乗ってくれた子のことを好きになってしまう展開は少女漫画にありがちだけど、それにしたってこんな現実でこんなことって…!!
「あ~、いやいや、言葉が足りなかったですね。」
ニノ君は目の前で手をひらひらと振って否定の意を表し、改めて言葉を探す。
「え~っと、1日だけ俺の彼女役をしてください。」
「へ…?彼女役…?」
ますます頭が混乱する。
一体なぜそんな必要があるのだろう?
「いや~…さっきの別れ話の時にね、あまりにもしつこいので『新しく彼女できた』って嘘ついちゃって。
そしたら『証拠見せてよ』って言われたんで、写真とかもないし、『彼女見せてやる』って言っちゃったんですよね~。」
「はぁ~!?」
確かにすごくニノ君に迫ってたし、ずっと泣いてたけど、そんな苦しい言い訳しなくたって…!
「そ、それで私!?」
「そう。」
「な、な、なんで!」
「適任でしょ?1番仲いい女子だから変な距離感出ないし。」
それからニノ君はいつものペースで話を勝手に進め、週末に1日デート(仮)をすることになってしまった。
会うだけでは信じられないミスキャンパスさんは、その日1日尾行してくるらしい。
「た、大変なことになった…。」
翔君には全てが片付いてから報告したいというニノ君の意向で、その1日デート(仮)が終わるまではミスキャンパスさん関連の話は全て内密にすることになった。
ニノ君と私の奇妙な1日が幕を開ける。