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△ Campus Life

第11章 Trick


会話までは聞こえなかった。
でも、彼女さんのほうは相当取り乱していたみたいだった。
ニノ君に泣きながら縋り付いていたし、ずっと頭を下げていた。
それでもニノ君は毅然とした態度で一貫していたからか、彼女さんは泣きながら公園を走り去っていった。
別れ話をするには随分長く話していたような気がした。



「ニノ君。」



彼女さん、いや、ミスキャンパスさんが見えなくなった頃、私はニノ君の傍に駆け寄って声を掛けた。
ニノ君は天を仰いで片手で目を覆っていた。
しかし、私が心配していたのとは反対に、口元は緩んでいた。



「は、はは…言えました、ちゃんと。」
「うん…。」
「引き下がってくれました。」
「そうみたいだね…。」
「あ~…緊張した。」



ニノ君は少し目元をマッサージするように揉むと、手をどけて私を見る。
泣いているかと思った。
が、予想とは反して、ニノ君はすっきりした顔をしていた。




「この前の海で見た『現場』の話をしたらすぐに白状しましたよ。」
「…うん。」
「でもだいぶ粘られました。金の力は怖いですね~。」



ニノ君は乾いた笑いとため息を同時に漏らしていた。
私はただそこに突っ立っていることしかできず、頭の中で次にニノ君に掛ける言葉を一生懸命考えた。



「今までなんであんなのが好きだったんだろ…あほくさ…。」



ニノ君はまた空を仰いでいた。
今度こそ本当に泣いてしまう気がして、私は何か声を掛けようとして疑問に思ったことを素直に口に出した。



「粘られたにしても、ちょっと話、長かったね?」



つい気になって聞いてみたものの、この質問は追い討ちを掛けたんじゃないだろうか。
焦ってフォローを入れようとすると、ニノ君は思いついたような顔をしてから意地悪く微笑んだ。
私は嫌な予感がした。
ニノ君が悪戯を思いついたときと同じ顔だ。



「そうか、小雨ちゃんなら適任だ。」
「な、何の話…?」



私は身構えてニノ君の言葉を待った。
ニノ君はにやりと口角を吊り上げてこう言った。



「小雨ちゃん、俺の彼女になってよ。」
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