第9章 Distractedly
こんなに怒っているニノ君は見たことがない。
怒っているというより、取り乱していると言った方が正しいか。
私を掴んでいる手が微かに震えているのが伝わってくる。
「ニノ君…!ニノ君、待って!」
私はニノ君の腕を振り解いて、立ち止まらせた。
ニノ君は眉間に皺を寄せて不機嫌な表情のままでこちらを振り返る。
「…なんですか。」
「ニノ君は悪くないよ…!ニノ君は誠実だったよ、いつも!」
あの現場は確かに浮気そのもの。
もしかしたら、ニノ君は最初から弄ばれていただけなのかもしれない。
でも、ニノ君は悪くないんだ。
ニノ君が彼女さんの話をするときはいつだって嬉しそうで、楽しそうで。
いつも、どんなときだって、彼女さんのことが最優先だったでしょ。
「だから、泣かないでよ…。」
「ック…!」
ニノ君の頬に一筋の涙。
私たちにも言えなかったんだね。
言葉にしたら、認めてしまうことになるから。
だからニノ君は、彼女さんとの微かな差異を見て見ぬフリをしてきたんだ。
その結果がコレで、ニノ君は今、とてつもなくやるせないんだ…。
「このことは…翔さんには秘密にして、ください…。」
「…わかった。」
ニノ君は上着の袖で涙を乱暴に拭うと、私の目を見てそう言った。
そんな真剣な瞳で言われては、頷く以外のことはできやしなかった。
「彼には、他に気を回してほしいんです。」
「他…って?」
私が聞くが早いか、ニノ君は再び私の手を取って歩き出してしまった。
答えは分からず仕舞いだったけど、今はニノ君に身を任せよう。
翔君の元へ戻ったら、またいつもの3人にならなくちゃ。