第9章 Distractedly
夜の海岸線。
浜辺には私たちみたいに花火を楽しむ若者達がチラホラ。
たまに通り過ぎる車のヘッドライトが、私とニノ君を照らし出す。
道幅が狭いのでニノ君が前に立ち、私は後ろからついていく形でコンビニまでの短いコースを歩いていく。
「ねーねー、ニノ君、花火どれくらい買う?」
「んー、それよりデザート的なものが食べたくないですか?」
「おっ、それもいいねぇ。」
時々振り返ってくれながら、ニノ君と私は他愛も無い会話を繰り返す。
こうして後ろから見ると、猫背で華奢なニノ君の背中もやっぱり男の子なんだな。
私よりずっとしっかりしてるし、うっすらと筋肉がついてるのも分かる。
「あ。」
コンビニの明かりが見えてきた時、ニノ君が急に立ち止まる。
ずっとニノ君の背中を見ていた私はブレーキを掛けられずにそのまま背中に鼻をぶつけた。
「いってて。も~、どうしたの?」
ニノ君を避けて、呆然と彼が見詰める先に視線を動かす。
そこには水着に男性物のパーカーを羽織る女の人。
どうやらコンビニの前で一服しているようだ。
口元からほんのりと白く煙があがっているのがわかる。
私はその顔に見覚えがあった。
「ミスキャンパス…の人?」
ご近所の有名女子大ミスキャンパスといえば、ちょっとした有名人。
もちろん私だってよく知っているし、目の前で固まっている彼は私なんかよりもっとよく知っているはず。
だって、彼女はニノ君の…
「俺の彼女。」
「だ、よね…。」
こちらに気付いていないミスキャンパスさんの隣には見知らぬ背の高い男の人。
強面で褐色の、まるでニノ君とは正反対な人だった。
でも2人はとっても親しげで、一緒に煙草を吸って談笑している。
「やっぱりね。」
「ニノ君…でも、ほら、私たちみたいに仲が良いだけで友達、かも…。」
ニノ君は悟ったように頷くと、2人を睨み付けた。
私は最近ニノ君の様子が少しおかしかった原因が分かった気がして、すかさずフォローを入れた。
でもそれも無意味。
あろうことか、2人は目の前でキスをしてしまった。
「仲が良い友達はキスするんですか?」
「あ…それは…」
「戻りましょう。」
ニノ君はくるっと踵を返して、今来た道を再び辿っていく。
困っている私も道連れに、ニノ君はしっかり私の手首を掴んでズンズン歩く。