第8章 Precious
いよいよ夏本番。
今日は電車に揺られてちょっと遠出。
暗いトンネルを抜けた瞬間、キラキラ光る青い海、白い砂浜。
絶好の海日和。
「おーい!こっち空いてそうだよー!」
海開きしてすぐだからか、浜辺は人で溢れている。
私は人を掻き分けて、落ち着けそうな場所を探して歩いた。
後ろからついてきている2人はビーチボールやらスイカやら水鉄砲やらの大きい荷物を抱えているので、少し動きが鈍い。
「ここにしよう!」
私が選んだ場所は岩場の陰。
直射日光が避けられるし、岩場なので砂浜に比べて人も少ない。
「あー!おっもい!!」
「ご苦労様です。じゃあ翔さんは海の家に行ってバーベキューセット借りてきてください。予約してあるんで。」
「えぇ!?」
翔君が荷物を全部下ろすとすぐに、ニノ君は翔君を顎で使う。
ニノ君はというと、簡易テントセットの説明書を広げてテントを立てるようだった。
とはいえ簡易なので広げて重石を四隅に乗せるだけの手っ取り早いものである。
翔君は肩を落としながらも、近くの海の家に行って来てくれる。
こういう優しいところが良い様に使われちゃう原因なんだけどなぁ。
3人で準備を進めて代わる代わるテント内で水着に着替え、あとは楽しむだけとなった。
いつもどおりお酒を開けて…と思ったが、私にはジュースが手渡される。
それもそうか。
今回は荷物も多いし移動距離も長いので、前回のようにベロベロに酔われると困るのだそうで。
「翔くーん!いっくぞー!!」
「おー!!」
私は翔君と、近くの岩場から飛び込み大会をしていた。
先に飛び込んでいた翔君に向かって、私も助走をつけて飛び込みにかかる。
そんなに高低差もなく、海面には岩もないので特に危険はない。
学校では気まずかった私たちも、海という場所が気持ちを大きくさせているのかいつもの2人に戻っていた。
むしろ、今まで何を気まずく思っていたのか不思議なくらいである。
翔君に好きな人ができたって、私のポジションは変わらない。
幼馴染のポジションは消えない。
だったら、今までどおりでいいんじゃないか。
わざわざ遠ざけるようなことをしなくても、翔君なら上手くやれるよね。