第7章 待ち合わせ 【Type N】
和君は最近、何かにつけて待ち合わせをしたがる。
「小雨、先終わる?」
「そうだね。順調にいけば。」
「じゃあちょっと待っててよ。俺ももう終わるから、一緒に帰りましょ。」
「いいよ~。」
今日は会報の撮影。
全員揃っての撮影は終わっていて、個人ショットの撮影が終わり次第、帰宅できる。
私は今着ている衣装で終わり。
和君は後1着着替えたら終わり。
そんなに時間は掛からないので、私は和君が終わるまで待つことにした。
今日は専属スタッフのみでの撮影なので、撮影以外では女子の格好でいられる。
待っているのはそんなに苦じゃなかった。
新曲の歌詞を覚えたり振りを覚えたり、番組の企画を考えたりラジオのお便りに目を通したり。
やることは山ほどあったから。
他のメンバーは先に撮影を終えて、ぼちぼち帰っていく。
それを見送りながら、私は和君の終了をひたすら待った。
「ふぅ~。目が疲れた。」
新曲の振り付けを確認するため、もう何回リピートしたかわからない動画から目を離し、少し眉間を揉んだ。
液晶の明るさに目が疲労し、首や肩も凝ってきたのを感じる。
「お待たせしました~」
「あ、やっと来た。」
その時、控え室のドアが開いて、撮影と着替えを終えた和君が現れた。
私はそれを合図に、動画を閉じて帰り支度を始める。
和君はドアの傍でただニコニコと見つめている。
「な、何?」
「んふふ。最近よく待たされるなって思ってません?」
妙に上機嫌な和君は怪しくて怖い。
でもそういえば。
確かに最近「待ってて」とか「一緒に行きましょう」とか、待ち合わせることが増えた気がする。
「思い当たるって顔ですね。」
「何かあるわけ…?」
まさか、何かのドッキリが仕掛けられているとか…?
でもただの待ち合わせにどうやってドッキリを仕掛けるんだ…?
何かの企画で待ち合わせに応じる回数を数えているとか…?
私が色々と思案していると、和君はあっけらかんと答える。
「別に、何も無いですよ。」
私はその返答に肩透かしをくらった気持ちになった。
「なんだよ~!思わせぶるから何かの企画とかかと思った!」
「んはは!ごめんなさいね。」
サッと荷物をまとめて和君と控え室を後にする。