第6章 Spark 【Type M】
「私、そろそろメイド辞めようかな。」
マネージャーに車で送ってもらっている帰り道。
女の子モードに戻っている私と、帰る方向が一緒の潤君。
1番後ろのシートに並んで座って、外を眺める私と、携帯チェックの潤君。
妙な沈黙が車内を包んだ。
「なんで?」
潤君は携帯を閉じて、話を聞く体勢になってくれた。
私も窓の外を見るのを止めて、カーテンを引いた。
「嵐に集中したいんだ。」
「今でも集中できてると思うけど。」
「そんなこと、ないよ…。」
正直まだ、迷っている。
嵐のみんなに追いつきたくて、曲練習も番組台本もしっかりやっている。
でももっと自分に時間があれば、とも思う。
一方で、メイドも楽しい。
みんな優しくて、お店も大好き。
でも一番スケジュールの調整が利かなくて、嵐の活動に支障を来たす元凶になりやすい。
「この前も、シフトの調整利かなくて撮影遅れた。」
「そんなこともあったね。」
「その前は、クローズ作業が長引いてコンサートのゲネプロ遅れた。」
「あー、そういえば…あったね。」
潤君は顎に手を当てて、考える仕草をしながら頷いた。
モデルの仕事はある程度、時間の融通が利く。
他のモデルさんの撮影などを先にしててもらったりだとか、逆に自分が早まってもなんら問題なかったりする。
でも、メイドは完全シフト制。
嵐の方で急な変更があっても柔軟な対応は期待できない。
「メイドの方を辞めれば、空いた時間でもっと練習にも力入れられるし、5人での仕事ももっと増やせる。」
「そうだね。」
潤君はもっとも、というように深く頷く。
「潤君…どう思う?」
私は潤君に問いかけた。
潤君は「う~ん」と唸って1回大きな伸びをする。
その手を勢いよく膝に戻すと、その反動で腿がパチッと音を立てた。
「俺は嵐で、小雨がメイドしてる時を一度も見たことないから、結局嵐サイドの答えしか出せない。」
「うん…。」
「嵐としては、小雨がそこまでメイドの仕事に不便さを感じてるなら辞めればいいと思う。俺らの仕事の幅も広がるし。」
「…だよね。」
「でもそれがすんなりできないってことは、メイドの仕事にも理屈じゃない何かがあるんだろうね。」
「…理屈じゃない、何か…。」
潤君の言葉をゆっくりと反芻して、考える。