第3章 初めまして
「ところでさ…」
『何?』
最近の事をあらかた話し終わると、こんな事を言ってきた。
「何で高校時代みたいに、理一って呼んでくれないんだい?」
『えっと…それは、その…奥さん…とかいたら悪い…と思って…』
最後の方は尻込みして声が小さくなったが、しっかりと内容は聞こえた。
「大丈夫だよ。残念ながら、まだ独身なんだ」
『そ、そうなんだ。じゃ、り、理一…さんでいい?』
目線を前に向けたまま、そう呼んだ。
「どうして、理一"さん"なの?前は"理一"って呼んでくれてたのに」
『だって、高校時代とは違うよ。やっぱり…』
「…」
何が違うのか、何で呼び捨てにしてくれないのか、疑問も沢山あるけどバイクを運転しながらでは、それ以上は上手くきけなかった。
ーーーーー
『由緒正しい家って…ここのお家だったのぉぉ!?』
よく通りすぎては見ていた家が、まさか理一の家とは思っていなくて思わず叫んでしまった。
「そんなに驚かなくても…」
『驚くよ!こ、こんな立派なお家に、こ、こんなワンピースでお邪魔したら悪いよ!はっ!思い出した!陣内くんのお母さんもいつも着物だった!』
「理一」
『え?』
「名前、理一じゃないと皆、陣内なんだから分からなくなっちゃうよ?」
『―ッ』
もう、玄関近くまできている現実に目眩を感じずにはいられなかった。
「さ、どうぞ。お嬢さん」
と、下りる際に手を出してくれた。
『だ、大丈夫だよ。それにお嬢さんって…年でもないし!っ!?』
恥ずかしさのあまり、倒れそうになるのを理一が支えてくれて助かった。
「あ、ありがと…」
『いいえ、さて慌てん坊のお嬢さんは僕が運んであげますよ』
「え?…きゃっ」
膝の裏にも腕を回し、横抱きの出来上がりだ。まさに、
世の中の女性がこんなイケメンに抱きかかえられたら、即倒するかもしれない。
なんて、 他人事に考えている。
その停止していた体を動かそうとした。
『重いから下ろして!』
「大丈夫。高校時代から変わってないよ?」
『まだ、覚えてるの!?文化祭の』
「覚えてるよ。だって、皆からお似合いだって言われて嬉しかったし」
な、何?この天然のタラシ。世の中の女性の敵になりかねないわ。
と、玄関近くまできた時であった。