【ハイキュー‼︎】【オムニバス】 岩泉一の恋愛事情
第2章 揺さぶられる……
「なんだ、知ってんのか、矢巾」
「あ、はい、彼女この前転校してきて、同じクラスなんですよ」
「隣の席になったから、いろいろ教えてもらってて……それで、はじめくんがバレー部で同じだって聞いて来てみたの」
「はじめ、くん……?……???」
矢巾の視線に、
「こいつ幼馴染だから」
だから特別。
家族以外で唯一自分を名前で呼ぶ人間。
「はじめくん、バレーすごく上手だったんだね。実はすごい人だって教えてもらってびっくりだった」
バレーをやっていることは、彼女には言ってなかった。
つか、ガキの時に別れて以来、大したことは喋ってない。
バレーのことも、自分のことも、なにも。
「別にそんなんじゃねぇよ」
「すごいよ」
ねえ、と矢巾に同意を求める姿にまた気持ちがざわついた。
「おい、もう遅いから早く帰れ」
「え……う、うん……」
ほら、と入口まで付き合って歩く。
外に出るともう真っ暗で、夜の寒さが肌を撫でる。
「住んでんの、前とは違うんだろ?」
「うん、今度はマンション。駅前だから便利だけど、やっぱり前の家の方がよかったなぁ」
「よく覚えてんな、昔のことなのに」
「覚えてるよ。はじめくんのことも、ずっと忘れたことなかったし」
にっこり笑顔が、記憶の中の彼女と重なる。
「じゃあまたね。今度は試合とかあったら見にいくね」
手を振って歩き出す彼女におもわず「おい」と声をかけていた。
「……つか、今度、部活ないときに、……ちょっと、どっかで話、でもする……か……」
「うん」
嬉しそうな声が跳ね返ってくる。
「じゃあ、…また連絡する」
「待ってるね。絶対だよ」
もう一度手を振って駆け出していく彼女をぼっと見送っていると、
「岩泉さん」
いつの間にか矢巾がいた。
「彼女、可愛いっすよね。結構人気っすよ2年の間でも」
「あ???」
「ひっ……!」
不機嫌オーラが露骨に出ていたらしい。
「な、なんでもないっす……おつかれっした!」
表情が固まった矢巾がそそくさと逃げていく。
「……渡さねぇよ」
つぶやいてから、
なに言ってんだ、俺。
……何を渡さないって?誰に?
「バカか、俺は」