【ハイキュー‼︎】【オムニバス】 岩泉一の恋愛事情
第8章 乱される……
雨……
気が付かなかった。
来た時は降ってなかったのに。
置き傘もないし。
下駄箱横の傘立てには、誰のかわからない傘が沢山。
しょうがないか……
この土砂降りなら、どうせ走っても濡れる。
なら、走ってもしかたない。
図書室で借りた本だけ濡れないように、本をいれた鞄を抱きしめて歩き出す。
あっという間に濡れて、ブラウスが肌に貼りつく。
正門に行く前に、もう靴の中までぐっしょり。
前髪やまつ毛についたしずくが目に入ってきて、前が見にくい。
「あれ、何やってんの?」
「あ……」
及川さん……
「びしょ濡れじゃん、傘は?」
体育館の出入り口から駆けてきた長身に手を引っ張られる。
「そのまま帰る気? 風邪ひくじゃん」
「あ、あの…大丈夫です……」
「大丈夫じゃないよ。傘貸してあげるからおいでよ」
「い、いい、大丈夫だからっ」
「いいから」
腕を掴む手が強くて、振りきれない。
引きずられるように連れて行かれた体育館内のロッカールームで、大きなバスタオルを渡される。
「ほら、早く拭きなよ」
「これ……」
「俺のだけど予備で使ってないし。きれいだから」
「……すみません」
「鞄だけ濡れてないけど、逆じゃん、普通」
「図書館の本入ってるから」
「土曜なのに図書館?」
「勉強したかったから」
青葉城西はひそかに進学校。
転校してきて、ちょっと勉強がしんどいのは事実。
でも、もしかしたら土曜日も部活で来てるはずのはじめくんに会えるかなと期待もしてた……
あいかわらずデートできるのは月曜日だけ。
インターハイ予選までもうすぐ。
はじめくんにとって今は部活が一番重要。
わかってる。わかってるけど……
「なんだ、岩ちゃん待ってるのかと思った」
するどい、この人。
「岩ちゃんたちなら今走り込み行ってて当分帰ってこないよ。俺は足捻ってるから留守番だけど」
及川さんの右の足首、テーピングがしてある。
「捻挫ですか?」
「まあ軽く……てか、残念だったね」
「なにが、ですか?」
「せっかく来たのに岩ちゃんいないし」
「別に、そういうんじゃないですから」
「うそ、がっかりしたって顔だったけど」