第5章 運命共同体のシンデレラ
力の出ない私の手は簡単にどかされ、ぼやけた視界に困った笑顔の翔君が浮かんでいる。
「泣いてる。」
「ごめんなさい。」
「なんで?」
翔君は私が横になっている大きなソファの肩置きに腰掛け、ティッシュを差し出した。
私はそれを受け取って涙を拭きながら、目線だけ翔君に向ける。
「情けない…いつも自分ばっかりこうなって。」
「しょうがないよ。俺らよりはるかに忙しいし、小雨が背負ってる物って、すっげー重いし。」
翔君は少し考えて、照れたように鼻をかきながらこちらを見た。
「だからさ、俺らにもうちょっと甘えていいんじゃねーの?」
「翔君…。」
「いっつも1人で悩んで、抱えて、頑張って。
そりゃー、最初は厳しいことも言いましたけど?
もうこのツアー一緒にやってきて、徐々に打ち解けてんな~って思ってたんだけど…俺だけ?」
翔君は私の頭を優しく撫でて、目を細めた。
私はまた目が熱くなった。
「頼るの下手で、ごめんなさい。」
「精進したまえよ。」
「…うん。」
グズグズと泣いていた私が泣き止むまで翔君はいてくれて、眩暈が治まった私はやっとご飯に手をつけた。
翔君と一緒に「美味しいね。」と食べるご飯は、本当に今まで食べたご飯の中で一番美味しいように感じた。
点滴とご飯のおかげですっかり元気を取り戻し、その日から「どんなことがあっても3食しっかり食べる」とメンバーに誓わされた私は、帰りにしっかりご飯を買い込んで翌朝も家から朝食を食べてきた。
そんな風にして関東公演もいよいよ本当に最後の日。
私は最後のMCを迎えていた。
「今日は本当に、本当に、本当に、お集まりいただきましてありがとうございました。
このツアーのおかげで、俺は嵐として一緒にやっていける自信が付きました。
皆さんがずっと応援してきた嵐に急に仲間入りするわけですから、絶対に認めてもらえないと思っていたんです。
でも、嵐のファンの皆さんは優しいですね。
最初の公演から俺の名前のうちわがあるの見つけて、すっげー嬉しかったんですよ。
本当にありがとうございます。
『嵐+1』にならないよう、俺も含めて『嵐』っていうのが自然になるように、これからも運命共同体として頑張ります。
皆も、一人一人が運命共同体です。
今日は本当に!
ありがとうございました!」