第5章 運命共同体のシンデレラ
地方公演も終わり、残すは関東に戻って最後の公演が3つのみ。
移動で疲れきっていた私も、やっと住み慣れた部屋に帰れる。
最終関東公演初日。
前日は家に帰ったものの、1人暮らしのために家には何も食料が無かった。
しかし買いに行く元気もなくそのまま寝てしまった。
迎えに来た車の中でもぐっすり眠り、会場入りした途端に視界が一瞬揺らいだ。
「寝ぼけてるのかな…。ふあぁ…。」
今日もいつもどおり、諸々の確認の為に朝から会場入りをしている。
身なりを整え、マイクとイヤモニを受け取ってステージに上がる。
先に上がっていた翔君を見つけ、そばに駆け寄る。
「はよ!」
「おはよう、翔君。」
あくびを連発する私を見て、翔君は笑みをこぼした。
「ふはっ!そんなに眠いの?」
「なんかね、関東ってホームって感じがしちゃって。安心してるみたい。」
「あ~、なんか分かるかも。」
あくびをかみ殺しながらダンスの確認をしようとしたとき、また視界が揺れた。
思わず翔君に掴まる。
「小雨!?どうした!?」
「ごめん、えっ…と、たぶん、眠い。」
「そんなわけないだろ。スタッフ呼ぶぞ。」
自分としては本当に眠いだけだと思っていたので、翔君がそんなに心配するのが不思議だった。
また笑い飛ばされると思っていたから。
翔君がマイクで専属スタッフを呼び、私はとりあえずその場にしゃがみこんだ。
救護スタッフによると、連続した長距離移動によるストレスと、まともに食事を取っていなかったことによる栄養不足らしい。
ツアーの最初に使った会場と同じ所だったため、リハの間は楽屋で点滴を打たれて横になっていた。
「また、迷惑掛けちゃったな…。」
栄養剤の点滴をボーっと眺めて、一人で呟く。
やるせなさでいっぱいになり、目が熱くなるのを空いてる手で覆って隠した。
「小雨~?」
その時、楽屋のドアが開いて翔君が入ってきた。
いい匂いがする。
ケータリングのご飯をよそってきたようだ。
「翔君?」
「ぴんぽん。ご飯食べな?」
「ん、ん~…ちょっと手が、塞がってる。」
泣いている顔を見られたくなくて、手をどかせなかった。
翔君はそんな私を見て、ため息をついているようだ。
「開けゴマ。」
「うぅ~…」