第5章 運命共同体のシンデレラ
「自分を見失っている、と。」
「そう、だね…。」
私は畳の上に座りなおし、膝を抱えた。
少し前から、ずっと悩んでいたこと。
「そういう区切りはさ、無くていいんじゃない?」
「え…?」
「だから、男とか女とか、なんかそういう、区分?」
和君は頭を掻きながら、うまい言葉を捜しているようだった。
「気象小雨は気象小雨。それでいいじゃん?
気象小雨ていうジャンルだと思ってさ。」
「ジャンル…。」
「だってそうじゃん。
解釈変えれば、それだけなんにでもなれるってことだよ?すごいことじゃないですか。
その時々でしか見れない視点があるし、だからどの気象小雨が正解か、なんて、そんなものはないんだよ。」
男でも、女でも、嵐でもメイドでもモデルでもない。
気象小雨というジャンル。
和君の言いたいことが分かった気がして、私はゆっくりと頷いた。
「うん、うん…なんとなく、分かった。」
「そうですか?」
「どの自分も気象小雨なんだ。」
「そういうことです。」
和君はそういうと立ち上がって手を伸ばした。
「さ、行きますよ。そろそろスタンバイです。」
「…うん!」
私はその手を取って立ち上がる。
元気が漲って来るみたい。
和君の温もりが伝わって、さっきまでの不安は嘘のよう。
そのまま手を繋いでぶんぶんと大きく振りながら会場に入る。
和君は、スタンバイ位置までずっと手を離さないでいてくれた。
彼なりの気遣いなのだろう。
「後で。」と離れた後、振り返って「ありがとう。」と呟いた。
和君は見ていなかったけど、それでもいい。
いつかちゃんと伝えるから。