第5章 運命共同体のシンデレラ
「私は誰?」
「私は何?」
「男なの?女なの?嵐?メイド?モデル?」
「どれが本当の自分?」
いろんな私が私を取り囲む。
聞きたくない。
苦しい。
自分が誰だかわからない。
助けて
助けて
助けて…!
「…け、て…た、すけ…」
「―ッ小雨!…小雨!」
「助けてッ!」
「小雨っ!!」
ハッと目を覚ました。
寝るときに付けていたイヤホンは取れている。
汗だくで、タオルを力任せに握っていた。
軽く肩で息をしている私を心配そうに覗き込んでいたのは和君だった。
その手にはまだ音楽が鳴っているイヤホン。
「和、君…。」
「はい、水。」
「あ、ありがとう…。」
呆然としている私にペットボトルを手渡す。
私はそれを受け取って、一口飲んだ。
冷たい水が体中を駆け巡り、一気に頭が覚醒する。
「魘されてましたよ。」
「う、うん…。」
イヤホンを返しながら、和君は目の奥で心配している。
辺りを見回すと、楽屋には私と和君しかいない。
他の皆はステージ確認だろうか。
「どんな夢、見たんですか。」
「…。」
こんな相談、みたいなこと。
嵐のメンバーになったばっかりだし、おこがましいような気がして、プレイリストを止めながら、口が開いたり閉じたり。
「言いづらいですか?」
「そう、だね。」
「ふ~ん。まぁ、言えないことなら無理に言わなくてもいいですけど…前に翔さんも言ってたけど、俺達もう運命共同体ですから。
それって、全部の感情を共有してもいいってことじゃないですか?」
和君はそう言いながら、床に落ちている携帯を拾いながらソファに戻る。
なぜそこに携帯が、と思って気が付く。
私が魘されてたから、慌てて起こしてくれたんだ。
その時に携帯を投げ出してしまったんだ。
そのぐらい、心配してもらえるくらい、みんなは近くにいるんだ。
「和君、やっぱり聞いてくれる?」
「はいはい。」
和君は携帯をいじりながら、身体だけこちらに向けた。
「夢でね、いろんな自分が、自分に聞くんだ。『私は誰?』って。」
「いろんな自分?」
「うん…。男の自分と、女の自分と、嵐の自分と、メイドの自分と、モデルの自分。」
和君は携帯を閉じて、ソファに頬杖をついて私を見つめた。