第1章 プロローグ
「取材…ですか?」
春も始まったばかり、やっと寒さから抜け出したような気がしていた頃、働いているメイド喫茶でテレビ取材が入るという話を聞いた。
「そうなのよ~。なんだか全国のメイド喫茶を調べ尽くすっていう名目らしくって、この地方からはうちのお店が選ばれたみたいなの!」
「へぇ~!すごいじゃないですか!」
メイド喫茶界隈では結構大きな規模を持つうちのお店。
でもまさか、テレビ取材が入るまでに有名になるとは思ってもみなかった。
メイド長も私も大喜びで手を取り合った。
「でね、でね、あめちゃんにお願いがあるんだけど…」
今まで取り合っていた手をギュッと握られ、メイド長の顔が少し意地悪く微笑んだ。
「な、なんですか…。」
「あめちゃんには、男装してきてもらいたいの!」
「えぇ~!!なんでですか!?」
うちのお店にはギャルソンは存在しない。
よって、私も今までイベント以外では男装などしたことがなかった。
「お願いよ~!いろんな楽しみ方ができますよ~っていうアピールになればいいなぁって思ってるだけだから、男装してそこに立っててくれてるだけでいいの~!お願い~!」
ほぼ泣き付かれている状態で頼み込まれ、私は断りきれずに受けてしまった。
しかし、これが放映されればうちの店には常にギャルソンがいるものと勘違いされてしまうのではないだろうか…。
そんな私の心配をよそに、メイド長はウキウキで店内の清掃を始めた。
そして、運命の日がやってきた。